『バベットの晩餐会』Bli-rauパッケージ表面

人生とは?信仰とは?喜びとは? 人の心に深く刺さる現代の童話

1987年第60回アカデミー賞®最優秀外国語映画賞の栄冠を、巨匠ルイ・マル監督の『さよなら子供たち』と争って勝ち取った名作です。

原作は、デンマークの大作家カレン・ブリクセン。彼女の肖像が、2009年まで50クローネ紙幣に使われていたほど、デンマークでは大切にされている作家です。
その彼女が、この本の出版社を、数年捜し歩いたそうです。

同じように、その小説を映画化したいと思ったガブリエル・アクセル監督は、10年以上プロデューサーを捜し歩いたそうです。

そんなエピソードにも、思わず納得してしまうのは、この作品は、本当に小ぶりで、地味な物語だからです。
しかし、その小さな物語の中に、人生とは何か? 信仰とは何か? 生きるとは何か? 人生の喜びとは何か? という問いへの答えが、ギュッと詰まっているように感じます。

主演のステファンヌ・オードランは、特典映像として収録されているインタビューの中で、この作品を「現代の、新しい童話」と評していますが、本当にそうだと思います。

19世紀末 デンマークに暮らす清教徒たちの貧しくも高潔な日々

物語の舞台は、19世紀後半、デンマークはユトランド半島の小さな村。
天国に迎えられる日を目標に厳しい戒律を守り、魂の高潔を守り続ける村人は、
精神的支柱である牧師の死後も、彼の美しき2人の娘、マーティーネとフィリパを
心の支えとして、貧しくも心穏やかな日々を過ごしています。

この村に、ある日やってきたのがバベットです。

彼女は、フランスに吹き荒れる革命の嵐に家族を奪われ、住むところを失い亡命してきた身。

かつてこの村でフィリパに歌を指導し、恋を告白したオペラ歌手からの紹介で、バベットは、この村にたどり着いたのです。

「彼女を雇って欲しい」という手紙を読んで、姉妹は「私たちの暮らしは貧しく、給金を払いことができない」と断りますが、ほかに行くあてのないバベットは、「お金はいらない」と願い出て、姉妹と共に暮らすようになります。

村人は、全員ピューリタン。
飾り気のない、つつましい日々を送ります。

バベットが村の一員となってから14年。

フランスから、一通の知らせが届きます。
それは、彼女がフランスに残る友人に頼んで、「フランスとのつながり」を感じるために買い続けていた宝くじが当たったという知らせでした。

そのお金を使って、彼女は、姉妹へ、そして村人へ恩返しの晩餐会を申し出ます。

姉妹も喜んでこの申し出を受け入れますが、彼女が食材を買い始めると、大いに焦り出します。村人全員の心が波立ちます。なぜなら、豪華すぎるから。

ウミガメにウズラなど、見たこともない食材を目にして、“贅沢” を禁じた戒律を守ってきた彼女たちの心がパニックに陥ります。

そして迎えた、晩餐会の日。

かつてマーティーネに想いを寄せるも、求婚を断られたスウェーデンの将軍ローレンスもやってきて、村人全員でテーブルを囲みます。

観終わると、必ずお腹が空く作品

この晩餐会が、物語のクライマックス。
豪華な食事におびえる村人たちをよそに、バベットは、かうて磨いた腕を振るいます。

彼女は、フランスの名門レストラン「カフェ・アングレ」で、“天才” と呼ばれたシェフだったのです。

映画の冒頭からここまで、非常に色味を抑えた寂しい映像が続くのですが、彼女が料理を始めるところから、徐々に画面に色彩が滲み出てきます。

14年間、自分が磨いてきた技術と、人生の喜びを感じていた仕事を封印していたバベットは、村人たちをもてなすフルコース作りに集中しています。彼女が、今、この時に全霊を傾けて、懸命に生きていることが伝わってきます。

何より、出来上がる料理の美しいこと。

一皿目のウミガメのスープから、村人たちが、あまりの美味しさに、ひそかに驚いている様がユーモラスに描かれます。

何といっても、ウズラのパイ包み!

ローレンス将軍が夢中になって、パリパリになっているウズラの首と手に取って、その頭がいをバリっとかみ砕き、そのまま脳みそをシュッとすすって味わう様を見ていると、何はともあれ「これ食べたい!」と思わざるを得ません。

このほかいろいろ書きたいところですが、この晩餐会の見事さは、ぜひご自身の目で確かめていただきたい。

このウズラのパイ包みあたりから、食事による喜びを抑えきれなくなった村人たちの様子がまたかわいらしい。おじいちゃん、おばあちゃんばっかりなんですけど、美味しい食事に生きる喜びをかみしめ、頬を赤らめて喜ぶ姿が、愛らしい。

厳しい戒律を守って、恋も手放して、村人たちの暮らしに寄り添って来た姉妹。
厳しい戒律を守って、姉妹を支え、共に祈りをささげてきた村人たち。
戦場にあっても、常にその心の奥にマーティーネへの想いを秘めてきた将軍。

彼らのすべてが、これまでの人生を悔いることもなく、魂の高潔を守ったまま、バベットが供する極上のフレンチに今を生きる喜びを感じ、心をほぐしていきます。

このささやかで、美しく、心躍る奇跡。

『バベットの晩餐会』は、ほんの小さな人生の奇跡を描いた作品です。

物語はとても小さく、派手さは一切ありません。
しかし、思わず何度も見返してしまうほど、魅力にあふれています。

物語の最後、ローレンス将軍のセリフの中に、この映画のメッセージが凝縮されています。

そして何より、晩餐会を終えたバベットの言葉……
「貧しい芸術家はいません」という言葉に、ハッとさせられます。

心豊かに暮らす人を、金銭的な貧しさで測ることは無意味なのです。

本当に美しい物語です。大好きです。

ちなみに、Blu-ray版は、ついこの間、2017年8月2日に発売されたばかりです。

心からおススメします。

※「カフェ・アングレ」は実在の名店。1911年に創業者の娘が「トール・ジャルダン」の主人と結婚したことを機に、「トール・ジャルダン」に統合されたそうです。

  

『バベットの晩餐会』Blu-rayパッケージ裏面

【作品メモ】
1989年2月18日 日本公開(シネセゾン配給)、2016年4月9日 リバイバル公開(コピアポア・フィルム配給)
1987年アカデミー賞(R)最優秀外国語映画賞受賞作品

デンマークの紙幣にもなる程著名な女流作家カレン・ブリクセンの原作を、数々の文芸作品をドラマ化し高い評価を受けたガブリエル・アクセルが丁寧に映画化。物静かな前半部分と、美味しそうな晩餐会の料理の描写が続く後半との対比が静かな感動を呼ぶ傑作が、最新HDニューマスターにて登場。
(amazon.co.jp 作品紹介より)

【監督・脚本】ガブリエル・アクセル
【製作総指揮】ユスツ・ベツァー
【製作】ポー・クリステンセン
【原作】カレン・ブリクセン
【キャスト】バベット/ステファーヌ・オードラン:マーティーネ/ビアギッテ・フェダースピール:若い頃のマーティーネ/ヴィーペケ・ハストルプ:フィリパ/ボディル・キュア:若い頃のフィリパ/ハンネ・ステンスゴー:監督牧師/ボウエル・ケアン:ローレンス将軍/ヤール・キューレ:将校時代のローレンス/グドマール・ヴィーヴェソン ほか

■Blu-ray 販売元:TCIエンタテインメント株式会社
本編:103分
映像特典:約12分(ステファーヌ・オードラン インタビュー映像、BFI版予告編、オリジナル版予告編)