Criterion社による北米版Blu-rayパッケージ

1961年の公開当時、それまでの黒澤明監督作品の中で最高の興行収入を打ち出した、痛快娯楽活劇。それが、この『用心棒』です。

あまりの面白さが世界中に衝撃を与え、日本映画として初めて“海外で盗作された”といいます。

ストーリーは極めてシンプル。
2つのやくざ一家が対立を続け、死人が絶えない街道沿いの小さな宿場町に、三船敏郎演じる素浪人=桑畑三十郎(偽名:劇中で本名を語ることはない)が現れて、町に平穏を取り戻します。

これがとにかく面白い。
脚本には一切の無駄がなく、演出・カメラワークの妙味で、理屈抜きに分かりやすい!
桑畑三十郎をはじめとした登場人物のキャラクターが、全員明確に作り込まれていて、それぞれの行動に一切の無理がない。とにかくグイグイと劇中の世界に引きずり込まれます。

ウェットで静かな時代劇ではなく、西部劇の文法に沿って、悪い人ぶって見せる桑畑三十郎の「いい人」っぷりを観客に一切押し付けることなくドライにテンポよく見せつけていくことも、本作の大きな特徴。男女問わず、誰もが惚れるかっこよさ!

さらに、アクションも当時前例のないスピード感。

香取神道流逆手不意斬りなる秘法(コーチは香取神道流師範の杉野嘉男)が話題をよんだ。「10人切るのに大体10秒」、それも息をつめたまま」やってのける三船敏郎のダイナミックな立回りのスピード感も映画には苦心身を与えていることは間違いない。
 ―― 映画評論家 山田宏一氏(東宝から過去に発売されたDVD BOX 「AKIRA KUROASAWA MASTER WORKS 2」に同封されていたブックレットより抜粋引用)

何しろ、三船敏郎の動きが速い! 一人を斬るのに、わずか一秒!!! しかも、本当に強い侍に見えるんです。踊るような殺陣ではなくて、本当に相手を切り伏せる大迫力の斬り合いなんです!!!
しかも、“人を斬った時の効果音”をつけたのも、この映画が最初なんだそうです。
そして、ピストルを構える仲代達也と、神速と言うべき三船敏郎との決闘の緊迫感たるや。
何から何まで前代未聞の大活劇!

この作品から、黒澤明監督は本格的にズームレンズを多用。
カメラを遠くに据えることで、役者の演技を邪魔しない上に、三船敏郎をはじめとする役者陣のアクションが、“より速く”動いているように写るんだそうです。

この時、使われたズームレンズは500㎜。
『羅生門』以来十一年ぶりに黒澤組に参加して、撮影監督を務めた、日本を代表するカメラマン・宮川一夫氏が作る望遠+パンフォーカスの世界。職人技にゾクゾクします。

で、本編を観終わったら、特典映像がまた素晴らしい!

私が購入したCriterion社による北米版Blu-rayには、かつて東宝が豪華DVD-BOX「AKIRA KUROSAWA MASTER WORKS」全3セットを発売した時に収録していたドキュメンタリー『創ることは素晴らしい』が収録されているんです。

このドキュメンタリーには当時、カメラ助手として望遠レンズのピント送りを担当していた木村大作氏の話をはじめ、仲代達矢氏のほか、当時のスタッフの方々によるとっておきのエピソードが満載で、ものすごく面白いんですが、どうやら、現在発売されている国内版Blu-rayには未収録なんです(ここ重要!)。

で、宿場町のオープンセットに関するエピソードがまたすごい。

当時でも異例の規模となる三千万円もの予算をかけて、細部にまでこだわって作られた壮大なセットが出来上がった日に、黒澤監督はひと目見て「…何かが違う」といったそうです。

…何が違うのか?

当時出回り始めていた「幕末の頃の街道の写真」を見つめながら、黒澤監督は「もっと、江戸の頃の道は石ころがあって、平らにもなっていない」と指摘したそうです。つまり、整地した上にセットを立てていますから、道がまっ平に整った新品過ぎて、リアリティがない、というわけです。

ここからのエピソードがまたものすごくて、世田谷の消防隊に協力してもらって、晴れた日に、一日中放水してもらい、「何年も雨に曝されてきた土の道」の味わいを作り出してしまったのだそうです。とにかく、すべてにおいてこんな調子でこだわっているから、画面の隅々まで力がみなぎっているわけです。

こうした裏話が満載のドキュメンタリーで、日本の映画産業華やかなりし頃、情熱のすべてを映画にかけた熱い話を聞いてから、改めて本編を見直すと、これがまた、さらに味わい深くて何度でも観てしまうという無限ループ! DVD-BOXを買った時から、今まで何度見返してきたことか。なんでこんな貴重な特典を、東宝は蔵の奥にしまい込んでしまったのでしょう……。非常に残念です。

ぜひ、一家に一枚、北米Criterion版Bli-rayを置いていただきたい。そう断言したいくらいに面白いです。
(続編の『椿三十郎』とセットなので、非常にお得!)

  

【作品メモ】
東宝と提携して設立された黒澤プロダクションの第二作目として1961年4月25日に公開(黒澤監督は当時51歳)。ヴェネチア国際映画祭 主演男優賞(三船敏郎)をはじめ、チネマ・ヌオーヴォ 金賞(三船敏郎)、第十二回ブルーリボン賞 第十位、同・主演男優賞(三船敏郎)、同・音楽賞(佐藤 勝)、同・特別賞(三船敏郎)、シナリオ作家協会 シナリオ賞、1961年度「キネマ旬報」ベスト・テン第二位など、さまざまな映画賞を受賞。世界中で絶賛された。

【監督】黒澤 明
【脚本】菊島 隆三:黒澤 明
【撮影】宮川 一夫
【撮影助手】斎藤 孝雄
【照明】石井長四郎
【美術】村木与四郎
【音楽】佐藤 勝
【キャスト】桑畑三十郎/三船 敏郎:新田の卯之助/仲代 達矢:小平の女房/司 葉子:清兵衛の女房おりん/山田五十鈴:新田の亥之吉/加藤 大介:造酒屋徳右衛門/志村 喬:居酒屋の権爺/東野英治郎 ほか

■Blu-ray発売元:Criterion

Criterion版Blu-rayパッケージ裏面