『モモ』(岩波少年文庫127)書影
こんにちは、株式会社プラップル コピーライターで
ソコキコ™オフィシャルトレーナーの佐藤秀治です。

コミュニケーションを難しくする原因はいろいろあ
りますが、非常に大きな例として挙げられるのが、

ほとんどの人が、「人の話を
聞いているようで聞いていない」
ということです。

これ、どうやら世界共通の課題なようです。

その証拠の1つとなるのが、世界的な童話作家 ミ
ヒャエル・エンデの代表作『モモ / 時間どろぼう
とぬすまれた時間を人間にかえしてくれた女の子の
ふしぎな物語』
です。

灰色のスーツに身を包んだ「時間どろぼう」たちの
魔手にはまり、あっという間に彩りを失っていく町
を、一人の少女・モモが、仲間と共に救う物語です。

岩波少年文庫の裏表紙には、このように書かれてい
ます。

町はずれの円形劇場あとにまよいこんだ不思議な少女モモ。町の人たちはモモに話を聞いてもらうと、幸福な気もちになるのでした。そこへ、「時間どろぼう」の男たちの間の手が忍び寄ります……。「時間」とは何かを問う、エンデの名作

  ミヒャエル・エンデ著 大島かおり訳 『モモ』岩波少年文庫127 裏表紙より
  ※太字強調は筆者

この物語が出版されたのは1973年のことですが、
「時間どろぼう」たちの姿は、情報革命後を生きる
現在の私たちの姿にそのまま当てはまります。

たとえば「第6章 インチキで人をまるめこむ計算」
には、下記のような鮮烈な一行があります。

「時間を倹約すれば、二倍になってもどってくる!」

   『モモ』岩波少年文庫127  p.101より

過ぎ去った時間が戻ってくることはありません。何
が二倍になって戻ってくるんでしょうね。この一文、
何かというと効率化! 生産性向上! が叫ばれる現
在の状況を連想させます。

先日Eテレで見た、マルクス・ガブリエル

高すぎる効率化は、人を抑圧する。

と言っていました。

時間を倹約したって、過ぎた時間は戻りません。

「時間どろぼう」たちは、言葉巧みに町の人を
「現代的、進歩的な人間のなかま」に勧誘し、
人々の時間を奪っていきます。

狡猾で、強力な力を持つ彼らに挑むモモは、ご
く普通の女の子。特別な力はありません。

その彼女が、唯一持っている “能力” が人の話
をきちんと聞いてあげることなのです。

私にこの本を教えてくれたのは、高校の現国の先
生でした。

ある日、『モモ』の一部をわら半紙にプリントし
てきた先生は、私たちにそれを読むように命じて
次のように言いました。

「だいたい、人というのは、他人の話を聞いてないもんだ。お前たちも、人の話なんて聞いちゃいない。『ちゃんと聞いてるよ!』というだろうが、実際には聞いているうちに入らない

衝撃的でしたね。そこまで言われちゃうのか、と。

同時に、深く納得しました。

だって、自分の話が人に100%伝わることって、
中々ないじゃないですか。少なくとも、当時の自
分の実感では「親には話が通じない」(苦笑)。

では、人の話を聞くということはどういうことな
のか?
『モモ』の本文から一節引用したいと
思います。

 モモに話を聞いてもらっていると、ばかな人にも急にまともな考えがうかんできます。モモがそういう考えをひきだすようなことを言ったり質問したりした、というわけではないのです。ただじっとすわって、注意ぶかく聞いているだけです。その大きな黒い目は、あいてをじっと見つめています。するとあにてには、じぶんのどこにそんなものがひそんでいたかとおどろくような考えが、すうっとうかびあがってくるのです。

   『モモ』岩波少年文庫127  p.23より

モモは、相手を急かすことがありません。
予断をもって、相手の話を誘導することもしませ
ん。ただじっと、相手の中から、言葉が湧いてく
るのを待っています。

これを本当に実践できる人は、私を含めてほとん
どいないでしょう。人の話を聞くということは、
かくも難しいものなのです。

そして、モモの大切な友人である道路掃除夫のお
じいさん、ベッポは、とても言葉を大切にします。

ベッポはじっくりと考えるのです。そしてこたえるまでもないと思うと、だまっています。でも答えがひつようなときには、どう答えるべきかようく考えます。そしてときには二時間も、場合によってはまる一日考えてから、やおら返事をします。

   『モモ』岩波少年文庫127  p.51より

相手に正確に想いや考えを伝えるためには、きち
んと考える時間が必要です。ベッポも素敵だな、
と素直に思いました。

高校一年の時にこの物語を読んで以来、私は常に
この二人のことを意識してきました。何だか、と
ても大切なことを教わったからです。

人は「高度に効率化された仕事」や
「社会システム」に、人と向き合う
ために必要な時間を奪われてきたの
ではないかと『モモ』が語り掛けて
くるようです。

仕事でいろんなインタビューを行う時も、この二
人が、頭の片隅にいました。

……もっとも、仕事の場ですから、そんなにゆっく
りはできないのですが……。

しかし、改めて思うんです。

時間を惜しんで、短くて
分かりやすい手軽な学びを求めるより、
後で後悔しないように、
今この時の人との関わりを
大切にしたい、と。

セミナーでは、もう少し深く、モモとベッポから得たことを、お話したいと思います。
皆様にお会いできることを楽しみにしています。

■ セミナー案内ページ:ストアカ

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※以前書いたエントリーが埋もれてしまっている
ので少し手を加えて、再掲させていただきました。