2018年に入ってから、以前に書いたこちらのブログ→ 笑いと差別:「保毛尾田保毛男」騒動と、アメリカのスタンダップコメディとへのアクセスが増えていました。

「何でだろう?」と思ったのですが、多分、大晦日恒例のあの番組『絶対に笑ってはいけないアメリカンポリス24時』での、ダウンタウン・浜田の黒塗りメイク騒動の影響なのでしょう。
そう思って番組名で検索してみると、結構大きな話題になっているようですね。

批判殺到の『笑ってはいけないシリーズ』 打ち切りの可能性もある?
  2018年01月08日 21時46分 リアルライブ
  https://news.nifty.com/article/entame/showbizd/12184-37657/

ただ、上記記事のタイトルにある「打ち切りの可能性」は、記者の憶測でしかないようですね。ネットのニュース記事って、釣りタイトルが多くて困ります。

しかし、あの番組の人気は衰えませんね。紅白の裏番組で視聴率17.3%というのは、すごいことなのだと思います。それだけにこの話題も盛り上がっているのでしょう。

騒動の内容について、上記リアルライブの記事から一部引用します。

 非難の対象となっているのは、浜田雅功が「ビバリーヒルズ・コップ」のエディー・マーフィーに扮し、顔を黒塗りにしたこと。番組としては笑いの1つと考えていたようだが、「人種差別的」だとして、Twitter上で一部から批判の声が上がったのだ。

 この件は日本だけにとどまらず、アメリカにも飛び火。5日付のニューヨーク・タイムズにも「黒塗りメークが物議を醸している」として、批判・擁護それぞれの意見を交え、事細かに紹介される。

 日本では「差別的な意図はなかった」との見方が大方だが、人種差別と受け取る人も一定数存在しているようで、現在もその内容について議論が繰り広げられている。

これ、大事なことは「差別的な意図はなかった」という日本の制作側の主観ではないんです。そんな主張に価値はないんです。

そもそも、エディ・マーフィーのモノマネをするのに「黒塗り」までワンセットであると考えるのを、やめた方がいいんです。
黒人差別が根絶されない理由は、「肌の色が黒い」という至極単純で理不尽な理由に依るところが大きいわけです。
肌の色は、個人の資質・能力に関係のない「身体的特徴」であり、本人にはどうしようもありません。

あの番組を私は少ししか見ていないのですが、エディ・マーフィーの「モノマネをした」というよりは、「コスプレをした」ということでしかなかったと思います。要するに、「(黒人差別の根源に関わる)身体的特徴を真似ることが、笑いになる」と判断したものであって、「差別的な意図はなかった」と抗弁しても、まったく説得力はありません。

外でいたずらをやめない子どもが、親に注意されて「いたずらのつもりじゃない!」と言い張っているのに近いです。

この笑いの構図って要するに、昔「ものまね四天王」の一角であった清水アキラのセロテープ芸と同じなんですけどね。
(例:研ナオコのモノマネをする際に、セロテープで鼻の穴を上向きに広げるなど)
私もあれを見て笑っていましたけどね。でも、あれだって、「外見的特徴」を笑っているだけなんですよ。

あれだって「差別的な意図はなかった」と抗弁しても意味がないんです。
もっとも、モノマネをされた研ナオコは、番組の司会者としてその場にいますし、タレントに関しては見た目の特徴も商売道具ですから、ムキになって目くじらを立てる話でもないんですけどね。

ただ、笑いを生み出す構造が一緒だというだけの話です。

でも、一方は、タレント同士の盛り上げ合いで、双方にメリットがある関係。
一方は、人種差別の根本にある身体的特徴を一方的に「嘲笑」しているだけの関係になってしまっている、と。

この問題は、そういうことなんです。

とにかく、「差別」に無自覚であることは、国際社会の中で恥じるべきです。経済先進国として自国を誇り、数多くの海外出身者が暮らす日本で、人種による差別など褒められるはずがありません。
日本テレビも、製作会社も、放送作家も、芸人も「批判されましたから、黒塗りはやめます」といった一面的な対応をするのではなく、笑いを生み出す構造そのものを見直して、誰に見られても恥ずかしくないコンテンツにして欲しいと願います。

「日本には黒人差別の歴史はない」的な意見も、ネット上で散見しますが、日本にも黒人差別はあります。
下記の失言は、その見本みたいなものです。

山本前地方創生相また失言「なんであんな黒いのが好きなんだ」
 (前略)
  山本氏の問題発言は、三原朝彦衆院議員の会合で飛び出した。出席者によると、山本氏は三原氏が長年取り組んでいるアフリカとの交流を紹介した上で「ついていけないのがアフリカ好きでありまして、何であんな黒いのが好きなんだ」と述べた。黒人差別とも受け取られかねない発言。今後、批判が出てきそうだ。

 山本氏は25日、福岡市内であった自民党会合で「アフリカを表す“黒い大陸”ということが念頭にあり、とっさに出た」と記者団に説明。「人種差別の観点は全くない。表現が誤解を招くということであれば、撤回したい」と述べた。(後略)

  スポニチ アネックス 2017年11月26日
  https://www.sponichi.co.jp/society/news/2017/11/26/kiji/20171125s00042000333000c.html

「黒人差別とも受け取られかねない発言。」という記述に、メディア側の政治家への気遣いも感じられるし、
「黒い大陸」とか「暗黒大陸」とかいうこと自体が白人社会による差別的な表現なので、なんの言い訳にもなってないんですけどね。
こんな失言を、前大臣がするんですから、あきれた話です。

ただ…

ダウンタウン 浜田には、特に罪はないし、番組自体も無邪気なもの。
「許してやれよ」といった意見が出るのもよく分かります。

この番組は、息子(9歳)が、ずっと見ていたので、私も時々見ていましたが、浜田の扮装に関しては、そもそも番組内での経緯が分からなかったし、制作側に黒人差別の意図がないことも分かっていますのでスルーしていましたからね。
でも、あの扮装が笑いになるのかどうか……それはちゃんと考え直した方がいいと思います。
ちょっと幼稚な発想ですし、若い人にとっては『ビバリーヒルズ・コップ』なんて、観たことも聞いたこともない古い映画なんですから。
あの映画が大ヒットしている最中に、あの扮装で出て来たのだったら、また違っていたでしょうね。それこそ、「文脈の違い」です。

むやみやたらに責め立てて、闇雲に糾弾するのではなく、大人として「何をどうしたら(一方的な)差別的表現となってしまうか」を良く考えて、今後の番組作りに活かして欲しいと思います。